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高市連黒人歌一首

高市連黒人歌一首 年月不審

婦負の野のすすき押しなべ降る雪に宿借る今日し悲しく思ほゆ

右傳誦此歌三國真人五百國是也

今日の宴で私は「放逸(ニゲ)た鷹を思って夢を見、感悦(ヨロコ)んで作った歌」を披露させていただいたが、もちろん、他の方々の歌もこの場では披露された。その中で、特に気に入ったのが三國真人五百國殿があの高市黒人殿の歌として吟じ上げられたこの歌だ。

「婦負」というこの越中の地名が詠み込まれているが、黒人殿が越中の地まで足をのばしていらっしゃったとは聞いたことがない。それにいつのおりの作であるか、三國殿も後存じないらしく、黒人殿作という所伝に何かしら不確かさを感じるが・・・この歌の持つそこはかとない哀感、不安・・・・これはまさに黒人殿の他の作に見られる強烈な個性そのもの。やはり、黒人殿の作と考えておいていいだろう。

「婦負」は私は「賣比」と書いておいたが、平成の御代の仮名で言うと「メヒ」となる。ところが、のちに「ネヒ」に転じたらしい。平安の御代の辞書「和名抄」に「婦負 禰比」とあることから、それまでにはこの音韻の転換があったのだろう。平成の御代においては富山市と言っている町の西に広がる平野がそれである。

実に哀切に富んだ・・・胸にしみ入るようないい歌だ。作者については若干怪しさはあるが上にも述べたとおり、黒人殿の作の見て間違いあるまい。さすが、黒人殿と言いたくなるような歌だ。歌友池主殿を失い、かわいがっていた蒼鷹の大黒にも逃げられ、孤独の中にあった私の心には・・・・こんな歌がいい。