思霍公鳥歌一首 田口朝臣馬長作
霍公鳥今し来鳴かば万代に語り継ぐべく思ほゆるかも
右傳云 一時交遊集宴 此日此處霍公鳥不喧 仍作件歌 以陳思慕之意 但其宴所并年月未得詳審也年次不詳
せっかく霍公鳥の声を聞こうと宴を催したというのに、その声が聞こえてこないというのはなんとも残念な話だ。困りきった馬長殿のお顔が目に浮かぶようだ。面目丸つぶれというのはこのことだろう。
ただ、その弁明に詠んだこの歌は、実にしょっている。「今し」の「し」という強めの言葉はとても大切な言葉だ。宴も始まりなかなか霍公鳥は啼かない。次第に焦ってくるのは馬長殿だ。他のどんな時でも啼かなくてもいいから、せめて今のこの瞬間だけでも一声啼いてほしい・・・切実な願いであろう。それにしても「万代に 語り継ぐべく」の一節はなんともまあ、おおげさな・・・との感じないでもない。私などは思わず、山上憶良殿の
士やも 空しくあるべき 万代に 語り継ぐべき 名はたてずして
の一首を思い出してしまった。憶良殿のこの一首は、その生涯を振り返っての悲痛な叫びであったが、ここでの馬長殿の置かれてる位置はそれほどのことでもあるまいに・・・まあ、それほど焦っていらっしゃったのだろう。
最後に長い左注になってしまった。分かりにくいと思われる方は次を参考にしていただければと思う。
人から伝え聞いた歌だ。あるとき、田口の朝臣馬長殿が親しい友人を集め、宴を催した。霍公鳥の声を肴に一杯という趣向だったのに、この日に限っていっこうにその声が聞こえてこない。そこで、この歌を詠み、その声を思慕する思いを述べることで、集まった友人たちに対する弁明とした。ただ、この話を聞いたとき、この歌が何時、どんな場所であったことなのかを聞くことを忘れていたので、今、それを明らかにすることはできない。