造酒歌一首
中臣(ナカトミ)の 太祝詞(フトノリトゴト) 言ひ祓(ハラ)へ 贖(アカ)ふ命も 誰がために汝(ナレ)
右は大伴宿禰家持が作った歌である。
二月に行ったこの越中の国の巡行で面白いものを見た。酒造りである。もちろん大和においても酒を造ってはいるが、そんなことに興味を持つこともなく私は過ごしてきた。
たまたま今回の巡行の途次、あの「はしたての 熊来(クマキ)酒屋に まゐらぬる奴 わし さすひ立て 率て来なましを まゐらぬる奴 わし」という歌で知られる、酒造りで有名な熊来村を過ぎたとき、偶然にも酒造りの場面に立ち会うことができた。大和にいたころならば何の興味も示さなかったかもしれないが、それはそれ・・・旅先にあるといろんなことに興味がわいてくる。これ幸いに見学させてもらっていると、彼らは声をそろえて歌っていた。おそらくは同じ歌を歌うことで互いの息をそろえようとしているのであろう。船乗りたちが櫂をそろえるため声揃え歌っているのと一緒だろう。
ひどく田舎びた言葉で、私には何と言っているのか聞き取れず、書き取ることもできなかった。けれども、その独特な節回しだけ耳をついて離れずにいる。そこで、戯れにその節回しに私なりに言葉をのせてみた。いかがであろうか・・・
それに間もなく都から左大臣の橘諸兄殿の使者として田邊福麻呂(サキマロ)殿がいらっしゃる。福麻呂殿の都でのお仕事は造酒司(サケノツカサ)の令史(サカン)だ。都において神事に用いられる様々な酒造りにかかわっていらっしゃる。そんな方に田舎の(越中の)酒造りの様子をお話ししたならばきっと喜んでくださるかと思う。加えて福麻呂殿は都で知られた宮廷歌人だ。私の拙い歌もその折の笑い種ぐらいにはなるであろう。